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コラム

働き方改革③-高度プロフェッショナル制度(脱時間給制度)とは

ここがポイント‐この記事から学べること

1.「時間ではなく成果で評価する」ことの意義

働き方改革の3本柱

政府が進める働き方改革では、残業規制、同一労働同一賃金、高度プロフェッショナル制度(脱時間給制度)が3本柱として掲げられていますが、ここでは野党や労働者側からの強い反対によってニュースを賑わせていた高度プロフェッショナル制度について、その内容と対策を解説します。脱時間給制度である高度プロフェッショナル制度の創設は、働き方改革の最大の焦点ともいえるもので、中小企業においてもその内容をしっかりと理解し、今後の自社の労務管理政策への参考にしていただければと思います。

高度プロフェッショナル制度とは
高度プロフェッショナル制度とは
高度プロフェッショナル制度は、一定の要件を満たすことによって、対象となる労働者を労働時間規制から外すともに、同労働者に対する時間外・休日・深夜の割増賃金の支払義務を免除する制度です。つまり、時間ではなく成果で評価して賃金を支払うことを目的とする制度であるため、「脱時間給」制度とも呼ばれます。
もっとも、労働基準法上の厳しい労働時間規制の適用が除外されるため、野党や労働者側団体からは「過労死につながる」などの反対の声が強く、また「残業代ゼロ法案」などとも呼ばれて世論の厳しい批判を浴びていました。
脱時間給は果たして悪か

高度プロフェッショナル制度は、生産性向上を目指す働き方改革の目玉ともいえる新たな制度で、多様で柔軟な働き方を実現するオプションの一つといえます。
生産性という点では、例えば、1週40時間の労働時間で10の成果を出す人と、1週60時間の労働時間で10の成果を出す人との対比がよく例として挙げられます。生産性高く働いているのは前者なのに、生産性の低い後者の労働者の方が残業代が付く分高い給料をもらえるのはおかしい(短時間で効率よく働いた人に報いるべき)、というものです。
これはこれで分かりやすい一つの説明ではありますが、高度プロフェッショナル制度は一般的な従業員の生産性の高低を問題としているというよりも、その名のとおり、「高度」で「プロフェッショナル」な業務に従事する労働者の働き方に多様性をもたらすことで、その能力を十分に発揮してもらおうということに眼目があります。研究機関における高度専門研究者や、高額な成果給・業績給を得る国際展開企業などのプロフェッショナル労働者については、例えば自己裁量で働く中で所定休日に数時間働いたとしても、これを労働時間数に比例して報酬に反映しない取扱いがその働き方としては親和的です。こうした高度に専門的裁量的な業務に従事するプロフェッショナル社員を対象としているため、一般的な労働者の生産性の高低にフォーカスしているものではなく、したがってまたそうした労働者の残業代を削ろうとしているものではありません。
対象者は極めて限定的でどれだけの制度適用実績が生まれるのかははたして疑問が残りますが、多様で柔軟な働き方の一つとして脱時間給制度が選択肢に加わることは、企業にとってだけでなく高度プロフェッショナル労働者にとっても前向きにとらえてもよいように思います。

2.高度プロフェッショナル制度の概要

対象となる労働者

上述のとおり、高度プロフェッショナル制度は、その名が示すように高度でプロフェッショナルな業務に従事する労働者を対象としています。制度の対象となる業務は、「高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるもの」として厚生労働省令で定められる業務ですが、例としては金融商品の開発業務、金融商品ディーリング業務、アナリスト業務、研究開発業務が挙げられます。
そして、これらの業務に従事する労働者のうち、一定の年収要件をクリアした者だけが適用対象となります。年収としては、1年間当たりの賃金の額が基準年間平均給与額(厚労省の統計により算定される労働者一人当たりの給与の平均額)の3倍の額を相当程度上回る水準とされていますが、具体的には省令で1075万円として設定されました。
年収1千万円以上は管理職を含めても労働者全体の約3%しかいないと言われていますので、このうち対象業務の従事者ともなると、制度の対象者はかなり限定されるといえるでしょう。

制度導入の手続き

労働基準法が定める労働時間規制の適用を除外する制度であることから、高度プロフェッショナル制度の導入には厳格な手続きが求められています。すなわち、ある労働者を同制度の対象とするためには、次の手続きを踏む必要があります。

  1. 労使委員会の5分の4以上の議決
  2. 労働基準監督署長への届け出
  3. 対象労働者の同意
健康管理時間の把握

高度プロフェッショナル制度導入にあたっては、使用者は対象労働者の健康管理時間を把握しなければなりません。「健康管理時間」とは、「事業場内にいた時間」+「事業場外において労働した時間」の合計をいいます。つまり、在社時間とともに、在宅勤務時間など社外での就労時間の両方を把握することが求められます。
在社時間についてはタイムカードやパソコンの起動時間等の客観的な方法により把握することが必要とされ、事業場外労働に限って自己申告が許容されます。

健康配慮措置

長時間労働による心身の健康問題への配慮や仕事と生活との調和を図るべきことは、高度プロフェッショナル社員であっても同様です。自己裁量の名のもとに働き過ぎとならないよう、使用者は対象労働者に対し、次のいずれかの健康配慮措置を講じなければいけません。

  1. 労働者に24時間について継続した一定時間以上の休息時間を与えるものとし(勤務間インターバル制)、かつ、1か月について深夜業は省令で定める回数以内とすること
  2. 健康管理時間が1か月または3か月について省令で定める一定の時間を超えないようにすること
  3. 4週間を通じ4日以上かつ1年間を通じ104日以上の休日を確保すること

なお、使用者は、選択した健康配慮措置の実施状況を労基署に報告することが必要となります。

不利益扱いの禁止

使用者が高度プロフェッショナル制度を適用しようとした場合に、その制度の適用に同意をしなかった労働者に対して、解雇その他の不利益取扱いをすることは禁止されます。

3.企業がとるべき対策

(1)制度導入の要否を検討

高度に専門的裁量的な業務に従事する自社の社員が、自律的働き方を制度化することで、より一層の能力を発揮できるか否かを検討します。

(2)制度導入の可否を検討

候補となる労働者が従事する業務が、専門的裁量的な業務として高度プロフェッショナル制度の適用対象であるか否かを確認します。専門的業務というだけではなく、実態として自己管理が可能で裁量的なものである必要があります。

(3)労使委員会での協議と決議

制度の導入には、使用者及び事業場の労働者を代表する者で組織される労使委員会において、対象業務、対象労働者、健康配慮措置等に関する決議をすることが必要となります。

(4)制度導入後の運用

労働時間規制についての悪用を防ぐため、厚生労働省は、高度プロフェッショナル制度を導入する全ての企業に対し労基署が監督指導することを方針として掲げています。制度は適切に運用して初めてその本来意図するところの効果を発揮できます。制度導入の成否は導入後の運用如何にかかっています。

なお、既に述べてきたように、高度プロフェッショナル制度の対象労働者の範囲は非常に狭いものであるため、一般的には中小企業がこの制度を導入することは現実的ではないかもしれません。もっとも、本制度の概要を知り、その意図する趣旨を理解することは、本制度を利用しなくとも、各企業の働き方改革を進めていく上では大いに役立つものと思います。

弁護士 古山雅則

この記事を書いた執筆者:弁護士 古山雅則

岐阜県出身。中央大学法科大学院卒業。経営者側に立った経営労務に特化し、現在扱う業務のほとんどが労働法分野を中心とした企業に対する法律顧問業務で占められている。分野を経営労務と中小企業法務に絞り、業務を集中特化することで培われたノウハウ・経験知に基づく法務の力で多くの企業の皆様の成長・発展に寄与する。

2019.05.30 | コラム

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