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コラム

働き方改革③-高度プロフェッショナル制度(脱時間給制度)とは

ここがポイント‐この記事から学べること

1.「時間ではなく成果で評価する」ことの意義

働き方改革の3本柱

政府が進める働き方改革では、残業規制、同一労働同一賃金、高度プロフェッショナル制度(脱時間給制度)が3本柱として掲げられていますが、ここでは野党や労働者側からの強い反対によってニュースを賑わせていた高度プロフェッショナル制度について、その内容と対策を解説します。脱時間給制度である高度プロフェッショナル制度の創設は、働き方改革の最大の焦点ともいえるもので、中小企業においてもその内容をしっかりと理解し、今後の自社の労務管理政策への参考にしていただければと思います。

高度プロフェッショナル制度とは
高度プロフェッショナル制度とは
高度プロフェッショナル制度は、一定の要件を満たすことによって、対象となる労働者を労働時間規制から外すともに、同労働者に対する時間外・休日・深夜の割増賃金の支払義務を免除する制度です。つまり、時間ではなく成果で評価して賃金を支払うことを目的とする制度であるため、「脱時間給」制度とも呼ばれます。
もっとも、労働基準法上の厳しい労働時間規制の適用が除外されるため、野党や労働者側団体からは「過労死につながる」などの反対の声が強く、また「残業代ゼロ法案」などとも呼ばれて世論の厳しい批判を浴びていました。
脱時間給は果たして悪か

高度プロフェッショナル制度は、生産性向上を目指す働き方改革の目玉ともいえる新たな制度で、多様で柔軟な働き方を実現するオプションの一つといえます。
生産性という点では、例えば、1週40時間の労働時間で10の成果を出す人と、1週60時間の労働時間で10の成果を出す人との対比がよく例として挙げられます。生産性高く働いているのは前者なのに、生産性の低い後者の労働者の方が残業代が付く分高い給料をもらえるのはおかしい(短時間で効率よく働いた人に報いるべき)、というものです。
これはこれで分かりやすい一つの説明ではありますが、高度プロフェッショナル制度は一般的な従業員の生産性の高低を問題としているというよりも、その名のとおり、「高度」で「プロフェッショナル」な業務に従事する労働者の働き方に多様性をもたらすことで、その能力を十分に発揮してもらおうということに眼目があります。研究機関における高度専門研究者や、高額な成果給・業績給を得る国際展開企業などのプロフェッショナル労働者については、例えば自己裁量で働く中で所定休日に数時間働いたとしても、これを労働時間数に比例して報酬に反映しない取扱いがその働き方としては親和的です。こうした高度に専門的裁量的な業務に従事するプロフェッショナル社員を対象としているため、一般的な労働者の生産性の高低にフォーカスしているものではなく、したがってまたそうした労働者の残業代を削ろうとしているものではありません。
対象者は極めて限定的でどれだけの制度適用実績が生まれるのかははたして疑問が残りますが、多様で柔軟な働き方の一つとして脱時間給制度が選択肢に加わることは、企業にとってだけでなく高度プロフェッショナル労働者にとっても前向きにとらえてもよいように思います。

2.高度プロフェッショナル制度の概要

対象となる労働者

上述のとおり、高度プロフェッショナル制度は、その名が示すように高度でプロフェッショナルな業務に従事する労働者を対象としています。制度の対象となる業務は、「高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるもの」として厚生労働省令で定められる業務ですが、例としては金融商品の開発業務、金融商品ディーリング業務、アナリスト業務、研究開発業務が挙げられます。
そして、これらの業務に従事する労働者のうち、一定の年収要件をクリアした者だけが適用対象となります。年収としては、1年間当たりの賃金の額が基準年間平均給与額(厚労省の統計により算定される労働者一人当たりの給与の平均額)の3倍の額を相当程度上回る水準とされていますが、具体的には省令で1075万円として設定されました。
年収1千万円以上は管理職を含めても労働者全体の約3%しかいないと言われていますので、このうち対象業務の従事者ともなると、制度の対象者はかなり限定されるといえるでしょう。

制度導入の手続き

労働基準法が定める労働時間規制の適用を除外する制度であることから、高度プロフェッショナル制度の導入には厳格な手続きが求められています。すなわち、ある労働者を同制度の対象とするためには、次の手続きを踏む必要があります。

  1. 労使委員会の5分の4以上の議決
  2. 労働基準監督署長への届け出
  3. 対象労働者の同意
健康管理時間の把握

高度プロフェッショナル制度導入にあたっては、使用者は対象労働者の健康管理時間を把握しなければなりません。「健康管理時間」とは、「事業場内にいた時間」+「事業場外において労働した時間」の合計をいいます。つまり、在社時間とともに、在宅勤務時間など社外での就労時間の両方を把握することが求められます。
在社時間についてはタイムカードやパソコンの起動時間等の客観的な方法により把握することが必要とされ、事業場外労働に限って自己申告が許容されます。

健康配慮措置

長時間労働による心身の健康問題への配慮や仕事と生活との調和を図るべきことは、高度プロフェッショナル社員であっても同様です。自己裁量の名のもとに働き過ぎとならないよう、使用者は対象労働者に対し、次のいずれかの健康配慮措置を講じなければいけません。

  1. 労働者に24時間について継続した一定時間以上の休息時間を与えるものとし(勤務間インターバル制)、かつ、1か月について深夜業は省令で定める回数以内とすること
  2. 健康管理時間が1か月または3か月について省令で定める一定の時間を超えないようにすること
  3. 4週間を通じ4日以上かつ1年間を通じ104日以上の休日を確保すること

なお、使用者は、選択した健康配慮措置の実施状況を労基署に報告することが必要となります。

不利益扱いの禁止

使用者が高度プロフェッショナル制度を適用しようとした場合に、その制度の適用に同意をしなかった労働者に対して、解雇その他の不利益取扱いをすることは禁止されます。

3.企業がとるべき対策

(1)制度導入の要否を検討

高度に専門的裁量的な業務に従事する自社の社員が、自律的働き方を制度化することで、より一層の能力を発揮できるか否かを検討します。

(2)制度導入の可否を検討

候補となる労働者が従事する業務が、専門的裁量的な業務として高度プロフェッショナル制度の適用対象であるか否かを確認します。専門的業務というだけではなく、実態として自己管理が可能で裁量的なものである必要があります。

(3)労使委員会での協議と決議

制度の導入には、使用者及び事業場の労働者を代表する者で組織される労使委員会において、対象業務、対象労働者、健康配慮措置等に関する決議をすることが必要となります。

(4)制度導入後の運用

労働時間規制についての悪用を防ぐため、厚生労働省は、高度プロフェッショナル制度を導入する全ての企業に対し労基署が監督指導することを方針として掲げています。制度は適切に運用して初めてその本来意図するところの効果を発揮できます。制度導入の成否は導入後の運用如何にかかっています。

なお、既に述べてきたように、高度プロフェッショナル制度の対象労働者の範囲は非常に狭いものであるため、一般的には中小企業がこの制度を導入することは現実的ではないかもしれません。もっとも、本制度の概要を知り、その意図する趣旨を理解することは、本制度を利用しなくとも、各企業の働き方改革を進めていく上では大いに役立つものと思います。

2019.05.30 | コラム

働き方改革②-同一労働同一賃金とは

ここがポイント‐この記事から学べること

1.正規・非正規の格差問題

働き方改革の3本柱

政府が進める働き方改革では、残業規制、同一労働同一賃金、脱時間給制度が3本柱として掲げられていますが、ここでは中小企業にとって労務管理に対する影響が大きいと考えられる同一労働同一賃金について、その内容と対策を解説します。同一労働同一賃金に関わる法改正は、中小企業においてもその内容をしっかりと理解したうえで、労務管理上の対応を行う必要のある重要な事柄といえるでしょう。

なぜ同一労働同一賃金なのか
なぜ同一労働同一賃金なのか

正規の雇用関係にある正社員以外のパート社員、アルバイト、契約社員、嘱託社員などと呼ばれる雇用形態の労働者を「非正規労働者」といいます。この非正規労働者については、「雇用の不安定さ」の点でも問題が指摘されますが、今回の法改正の趣旨は、非正規労働者の「不合理な待遇の格差」を解消することにあります。
非正規労働者は正社員の6割程度の給与とも言われ、年収100万円~200万円の低収入労働者も多く、正社員との待遇格差に対する不公平感は大きなものがありました。

そこで、政府は「非正規という言葉を一掃していく」との掛け声のもと、非正規労働者の待遇を改善するために、企業に対して不合理な待遇の格差の解消を義務付けることを制度化したのです。

2.同一労働同一賃金の概要

同一労働同一賃金とは

同一労働同一賃金とは、一言でいえば、職務の内容が同じであれば雇用形態にかかわらず平等に賃金を支払う、というものです。
なお、正確に言えば法律の内容は「同一労働同一賃金」そのものではないと考えますが(つまり、職務内容が同一であれば必ず同一の賃金であるべし、という考え方そのものを採用しているわけではない。)、分かりやすさを重視し、また一般的にも同一労働同一賃金の名で呼ばれていますので、ここでも改正法=同一労働同一賃金ということで話を進めたいと思います。より正確に言えば、従業員の均衡・均等待遇原則といったところでしょうか。

現行法の規定

現在でも、パートタイム労働法、労働契約法においてこの均衡・均等待遇に関する規定は置かれています。内容については次の改正法の箇所で合わせて説明します。

パートタイム労働法8条(短時間労働者の待遇の原則)
「事業主が、その雇用する短時間労働者の待遇を、当該事業所に雇用される通常の労働者の待遇と相違するものとする場合においては、当該待遇の相違は、当該短時間労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。」
パートタイム労働法9条
(通常の労働者と同視すべき短時間労働者に対する差別的取扱いの禁止)
「事業主は、職務の内容が当該事業所に雇用される通常の労働者と同一の短時間労働者・・・であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されると見込まれるもの・・・については、短時間労働者であることを理由として、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、差別的取扱いをしてはならない。」
労働契約法20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
「有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。」

このうち、労働契約法20条をめぐる非正規待遇格差の問題については、ハマキョウレックス事件、長澤運輸事件という2つの最高裁判決が出ており、改正法における同一労働同一賃金への対策にも参考になるものと思われます。

改正法の規定

改正法(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)によって、上記でみたようにパートタイム労働法と労働契約法でそれぞれ短時間労働者(パートタイマー)と有期労働契約者(契約社員など)に関するルールを定めていたものを、パートタイム労働法に一本化してルールが整備されます。これに伴い、パートタイム労働法は「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(ここでは「パート・有期労働法」と呼びます。)に名称を変更し、短時間労働者と有期労働契約者の双方に適用されることになります。

肝心の中身については、基本的には現在のパートタイム労働法8条、9条及び労働契約法20条の内容を引き継いでいますが、順に内容を確認していきましょう。

均衡処遇(パート・有期労働法8条)

改正法であるパート・有期労働法8条では、現行法のパートタイム労働法8条(短時間労働者の待遇の原則)を有期雇用労働者についても適用し、使用者に対して短時間労働者または有期労働契約者への均衡処遇を求めています。

パート・有期労働法8条(不合理な待遇の禁止)
「事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。」
つまり、業務の内容や責任の程度などを考慮して、短時間・有期雇用労働者と正社員との間で不合理な待遇格差を設けることが禁止されています。
そして、この待遇格差の不合理性は、基本給、賞与、諸手当、教育訓練、福利厚生など個々の待遇ごとに判断される点が重要です。待遇の相違が「不合理」であるか否かの判断要素は、①職務内容(業務の内容及び責任の程度)、②職務内容と配置変更の範囲、③その他の事情です。

職務内容
職務の内容が同一である場合はもちろんのこと、類似性がある場合もその程度とともに考慮されることになります。業務の種類、難易度、範囲や権限などが考慮の対象となります。
なお、職務内容はあくまで判断要素の一つですので、職務の内容が異なっていても待遇の内容によっては不合理と認定される場合もありえます。たとえば、通勤手当の支給などについては、職務内容が異なっていたとしても、短時間・有期雇用労働者を正社員よりも不利益に扱うことは、通常は不合理と判断されることになるでしょう。
職務内容と配置変更の範囲
これは、転勤や昇進、役割の変化の有無や範囲をいいます。いわば、人材活用、人材育成の仕組みの問題です。残業、休日出勤義務、遠隔地への転勤の有無、海外勤務の有無などの負担があるかないかでは、たとえば同じような業務をしていたとしても賃金に差が生じることは正当化されるといえるでしょう。
その他の事情
これには個別の事情に応じて様々なものが考えられますが、たとえば職務の成果、意欲、能力、勤続年数や過去の貢献度などが考慮の対象となりえます。長澤運輸事件最高裁判決(最判平成30年6月1日)では、「定年退職後に再雇用された者であること」が、労働契約法20条にいう「その他の事情」に当たると指摘しており、この点は改正法においても同様に考えられるのではないかと思われます。
違反するとどうなる

パート・有期労働法8条に違反すると判断された場合、不合理とされた待遇を定める部分は無効とされます。その結果、不法行為として損害賠償請求の対象となり、賃金であれば、過去の差額賃金相当額を逸失利益として賠償請求されうることになります。
この点は、現行の労働契約法20条がもつ民事的効力と同様のものと解されます。

均等処遇(パート・有期労働法9条)

改正法であるパート・有期労働法9条では、現行法のパートタイム労働法9条(通常の労働者と同視すべき短時間労働者に対する差別的取扱いの禁止)を有期雇用労働者についても適用し、使用者に対して短時間労働者または有期労働契約者への差別的取扱い禁止しています。

パート・有期労働法9条
(通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止)
「事業主は、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期労働者・・・であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されると見込まれるもの・・・については、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない。」

正社員と①職務内容(業務の内容及び責任の程度)、②職務内容と配置変更の範囲が同一である場合に、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、短時間・有期労働者を正社員と差別的に取扱うことが禁止されています。

福利厚生施設(パート・有期労働法12条)の利用

厚労省令で定める福利厚生施設(給食施設、休憩室、更衣室)については、短時間・有期雇用労働者に対しても利用の機会を与えることが義務付けられます。

待遇差の説明(パート・有期労働法14条)

パート・有期労働法8条(不合理な待遇の禁止)に関し、短時間・有期雇用労働者から求めがあった場合は、事業主は、正社員との「待遇の相違の内容及び理由」等を説明することが必要となります。

通常の労働者への転換(パート・有期労働法13条)

正社員を募集する場合の募集情報の告知(応募機会の付与)など、短時間・有期雇用労働者に対する正社員への転換を推進する措置が義務付けられます。

3.中小企業がとるべき対策

(1)正社員と非正規社員との間の待遇差を確認

まず、正社員と非正規社員との間に、基本給、賞与、諸手当、福利厚生、個別の労働条件等の個々の待遇ごとに、どのような相違が存在しているのかを確認し、整理します。

(2)正社員のみに支給されている待遇の支給要件・趣旨を確認

正社員には支給されていて非正規社員には支給されていない個々の待遇それぞれについて、支給要件や趣旨を確認します。そのうえで、上記で説明した3つの判断要素①職務内容(業務の内容及び責任の程度)、②職務内容と配置変更の範囲、③その他の事情を考慮したときに、その性質や目が非正規社員に対しても同様に及びうるものか否かを検討します。

(3)待遇相違の正当化事由の検討

待遇に相違が生じている場合、個々の待遇に対して①職務内容(業務の 内容及び責任の程度)、②職務内容と配置変更の範囲、③その他の事情を考慮したうえで、待遇差を正当化しうる合理的な理由の有無を検討します。

(4)就業規則(賃金規定)の整備・修正

賃金規定や雇用契約書に個々の手当の目的・趣旨を明確に規定し、先に検討した趣旨や目的に照らして各種手当を統廃合するなど、個々の待遇の内容や支給要件を明確にします。待遇差の理由について説明を求められた際、これに対応できるよう準備しておくことが必要です。
不合理待遇禁止をクリアするためには、従業員区分とその処遇の体系を、職務の内容、人材育成・人材活用の仕組みの違い及びその他の事情から説明がつくように修正し、処遇内容や条件を再編成することも検討結果に応じて必要となります。

なお、改正法による同一労働同一賃金は、大企業には令和2年(2020年)4月から、中小企業には令和3年(2021年)4月から適用されます。大企業では、例えばイオンリテール株式会社が社員区分に関わらず通勤手当の上限を撤廃することを発表するなど、対応が進んでいるところもありますが、未だ対応準備が進んでいない中小企業では早急に対応への着手が求められます。

2019.04.24 | コラム

働き方改革①-新しい残業規制とは

ここがポイント‐この記事から学べること

1.新残業規制導入の背景

働き方改革関連法の成立

中小企業の労務管理に大きな影響を及ぼす①残業規制、②同一労働同一賃金、③脱時間給制度を3本柱とした働き方改革関連法が平成30年7月に成立しました。テレビや新聞などのニュースでも「働き方改革」は大きく取り上げられていましたが、その内容を正確に理解されている経営者の方は少ないのではないかと思います。そこで、働き方改革といわれる上記3つの柱について一つずつ解説を行い、中小企業がとるべき対応策について検討してみたいと思います。ここでは、まず①残業規制について話をします。②同一労働同一賃金、③脱時間給制度については、別記事で解説しています。

長時間労働の是正
長時間労働の是正

労働時間についての基本原則は、1週40時間、1日8時間という法定労働時間です(労働基準法32条)。ところが、労働基準法は、その36条によって、労使の間で協定(いわゆるサブロク協定)を結んで行政に届け出ればこの法定労働時間を延長することを認めています(労働基準法36条)。この36協定があることによって、日本の企業では事実上上限なく、青天井で残業をさせることができていました。

結局無規制にも等しい労働時間法制のもと、労働者の働き過ぎによるメンタルヘルス問題や過労死問題等が続々と生じることになり、いわゆる「働き過ぎ問題」解決のために労災認定基準の変更や職場のストレスチェックの導入など数々の過労死等防止対策が行われてきました。新残業規制は、長時間労働=健康障害の構図が一層明確化された昨今、この悪の象徴ともなった「長時間労働の是正」のために導入されたものであることはよくご理解いただけるのではないかと思います。

そして、これは単に労働者の健康のためだけでなく、労働時間を減らす分「労働生産性の向上」を目指して企業はがんばってね、という趣旨が含まれています。残業規制を導入することによって、企業に労働生産性向上促進の発破をかけるというわけです。ライフワークバランスへの従業員の意識変化もそうですが、労働人口の減少等日本には構造的に抱える問題がありますので、従業員の「働き方」「働かせ方」への自助努力が企業には期待(押し付け?)されているといえるでしょう。

長時間労働の是正

以上が「働き方改革」の名のもとに新しい残業規制が導入された意図や背景ですが、これをしっかりと理解しておくことは非常に重要です。労働時間規制の内容だけを見てこれに対する対策をしようと思うと、「厳しいなぁ、なんか損だなぁ」「企業にばかり負担を強いる」「経営が苦しくなる一方だ、もう嫌になるよ」などと後ろ向きの気持ちになり、表面的な対策に終始しがちになってしまいます。

そうではなく、新残業規制導入の意図、背景を真に理解し、これに対する対策を「前向きに」とることで、中小企業の皆様もリスクを減らして会社を成長させる有効な雇用政策をとることが可能となります。この機会に是非、新労働時間規制をしっかりと理解し、自社をさらに発展させるためのきっかけにしてもらえたらと思います。

2.新残業規制の概要

青天井の残業に上限規制が導入

時間外労働の上限規制の概要は次のとおりです。

ルールⅠ
残業の上限は月45時間、年360時間が原則
ルールⅡ
特別事情がある場合は月100時間未満、年720時間が上限
ルールⅢ
複数月を平均して月80時間を上回ることは許されない

このうちルールⅠについては、規制の原則を定めたもので現行の規制と変わりはありません。現行法でも、厚労省の定める時間外限度基準によって1か月の時間外労働の上限が45時間と規制され、1年間の時間外労働の上限も360時間と規制されています。もっとも、現行法では例外が広く許容されており、特別条項付の36協定を結ぶことでこの制限を撤廃できたため、結局は青天井の残業が可能でした。

したがって、有名無実ともいえた「上限」に命を吹き込んだルールⅠとルールⅡが今回の新残業規制の肝であるといえます。
ルールⅡによって、どれだけ繁忙期であったとしても従業員を単月で100時間働かせることはできなくなります。しかもルールⅢがありますので、2カ月連続で90時間残業させることもできません。仮に特別条項を月99時間とし、ある月において99時間の時間外労働を行わせた場合、ルールⅢに抵触しないようにするためには、翌月は必ず61時間以内の残業に抑えなければなりませんので、緻密な労働時間のコントロールが必要となってきます。

しかも、このルールⅡの単月100時間規制とルールⅢの規制は、「法定休日労働」も含めて計算されます。週一日の法定休日とそれ以外の所定休日とは割増率の違いなど別個に考えられることが多いですが、この新しい時間外労働規制では一緒に合わさって規制されますので注意が必要です。
また、特別事情に基づくルールⅠの残業上限月45時間規制の適用除外は、あくまで臨時的「特別」な事情に基づくものですので、年半分を上回らないよう年6回が上限となります。

そして、これらのルール違反に対しては「6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金」という刑事罰が定められ、上限規制への実効性を担保しています。

割増率もUP

1カ月60時間を超える時間外労働が行われた場合の割増率については、5割以上の率によって残業代を支払わなければならないことが現行法でも定められていますが(労働基準法37条1項但書)、中小企業に対してはこの規定の適用が免除されてきました。今回の法改正で、この特別割増率の規定の猶予措置が排除されます。
したがって、中小企業においても、1か月の合計が60時間を超えた時間外労働が行われた場合、その超えた時間については5割以上の割増賃金をもって残業代を支払う必要があります。

新残業規制が適用されるのはいつ?

新しい残業規制が中小企業に適用されるのは、令和2年(2020年)4月1日からです。大企業に対しては、1年早く平成31年(2019年)4月1日から適用されます。
新残業規制適用までに許された猶予期間はわずかです。恒常的な長時間残業が生じている企業では早急に対策を検討する必要があります。

一部の業種では適用が除外

自動車運転業務、建設事業、医師、研究開発業務については、人手不足や業務の特殊性等の理由により新残業規制の適用除外とされています。もっとも、あくまで改正法施行後5年間の猶予という位置づけですので、将来的には上限規制の全面適用も想定されます。

3.中小企業がとるべき対策

(1)雇用契約の内容と労働時間の実態を把握

新労働規制への対応策を検討する前提として、まずは現在の就業規則、雇用契約書(労働条件通知書)の内容と従業員の働き方とが現在の労働基準法に合致しているかを確認します。現在の法規制への対応度を把握し、これが十分にできていない場合は現時点でのリスクを洗い出すことが出発点になります。

(2)新残業規制へのあてはめ

従業員の労働時間の実態に基づいて、新残業規制をクリアできるかを次の各視点から確認します。

  1. 年720時間が時間外労働の上限ですので、月平均60時間以内の残業であるか否かを確認します。
  2. 月45時間を超える残業のある月が6カ月以内であるか否かを確認します。
  3. 1カ月の残業時間が100時間以上の月があるか否かを確認します。
  4. 繁忙期の残業時間が2カ月連続で80時間以上となっていないか否かを確認します。

これはすべての従業員について確認することが必要です。現在の労働環境が新残業規制に合致していない場合は、これに適応できるよう雇用制度や賃金制度を見直していくことが必要となります。
そして、この時の対策の立て方としては、法改正の意図や背景を理解したうえで、「規制だから仕方がない」というような後ろ向きの気持ちではなく、これを機に「労働生産性向上に取り組む」という前向きな姿勢で向かっていくことが企業を一層強くする確信しています。

2019.03.18 | コラム

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