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コラム

東南アジア最大の経済大国インドネシア - ジャカルタ視察旅行回想

ここがポイント‐この記事から学べること

2020年2月、東南アジア最大の経済大国として経済成長を続けるインドネシアの視察を行いました。今回は、世界第5位の経済大国を目指すインドネシアでのビジネスチャンスや司法制度について、視察で学んだことや感じたことをお伝えさせていただきます。
なお、私がインドネシアを訪問した2月中旬頃は、まだ新型コロナウイルスの脅威は欧州や米国には及んでおらず、インドネシアも感染者数ゼロとなっていましたが、ホテルやオフィスビルへの入館の際は必ず体温チェックが行われるなど、新型コロナウイルス感染防止のための厳戒態勢が敷かれていました。

1.世界の輝ける星‐インドネシア

インドネシア共和国(Republic of Indonesia)
インドネシアの国土は東西5110㎞に延び、1万数千もの島々によって構成されています。
観光地としてはビーチや渓谷など豊かな自然に恵まれたバリ島が何といっても有名ですが、ビジネスの中心は1000万人以上の人が集う首都ジャカルタです。高層ビルが林立し、渋滞も凄まじいものがありますが、経済成長とビジネスを重視する現政府は、インフラ整備と持続性の観点等からボルネオ(カリマンタン)島東部への首都移転を計画しています。デジタル技術を駆使した最先端都市が形成されれば、これまで以上に経済発展の礎が築かれるといえ、首都移転計画は国内外問わず多くの人にとって心躍る大計画といえます。

まだまだ続く人口ボーナス期

インドネシアは、約2.6億人という世界第4位の人口を擁する国ですが、特筆すべきはその人口の約50%以上が30歳未満という点です。既に東南アジア最大の経済大国ともいえますが、今後も労働人口の拡大が見込まれる人口構造がこの国の更なる成長を約束しているともいえ、世界第5位の経済大国を目指す前向きなエネルギーに満ち溢れています。

多数の日系企業が進出

インドネシアには、既に2000社近い日系企業が進出していますが、これは中国、米国、インド、ドイツに次ぐ第5位の進出企業数となっています。今後も有望事業展開先として進出が続くことが見込まれますが、一方で、人件費等の労働コストの上昇と法制の運用の不透明さが大きな課題として受け止められています。もっとも、こうした課題は多くの新興国に共通しているため、こうした課題と現地マーケットの規模・将来性とのバランスの中で投資判断をしていくこととなるでしょう。
ベトナムやタイ等への進出との比較の視点でいえば、インドネシアは約2.6億人という世界第4位の人口を擁し、労働人口と中間層の増加が継続していく点です。この特色をとらえれば、安価な労働力をもって現地で製造した商品を日本を含めた海外へ輸出するというのみならず、インドネシア国内での販売を志向する戦略をとるか否かが進出判断の決め手になるかもしれません。

2.地元住民と外国企業の共生‐産業界のニーズにあった人材育成

MM2100工業団地

MM2100工業団地は、インドネシア政府の外資導入政策のもと、丸紅が現地パートナー企業との合弁会社MMID社を設立し、同社のもと開発、運営・管理がなされている工業団地です。ジャカルタから最も近い工業団地としてスカルノハッタ国際空港へのアクセスも良く、生産・物流拠点として最適の立地を誇っています。なお、この工業団地へ最初に進出した企業はソニーとのことで、当時市場を席巻したカセットのウォークマンを製造していたようです。
現在、日系製造業を中心として約180社が入居・操業していますが、今後も重要拠点として更なる発展が見込まれます。

優秀な人材を輩出する職業専門学校SMK Mitra Industri

このMM2100内に、工業団地の開発・運営に関わった日本人の方らが中心メンバーとなって設立された職業専門学校SMK Mitra Industriがあります。
この職業専門学校設立の趣旨は、地元住民と外資進出企業との共生にあります。貧富の差が激しく教育格差も大きいインドネシアでは、日系企業をはじめとした外国企業への就職は低所得層から脱却するための最初の成功といえます。工業団地入居企業の協力のもと運営されているSMKは、地元の子供たちへの教育・能力開発を通じて日系企業等への就職が可能な人材育成を行い、地元の住民らに大きな貢献を果たしています。実際、卒業生のうち就職希望者の就職率は100%を誇っており、多くの日系企業が卒業生らを積極的に採用しているとのことでした。

明確な目標設定と自主性が生徒を育てる

SMKの教育方針や授業等はどれも素晴らしいものがありますが、中でも非常に印象的なものが「校則を生徒が自分たちで考え自分たちで作る」というものです。
SMKでは、生徒たち自身に、規律を守るとはどういうことか、誠実であるとはどういうことか、協調とはどういうことか、思いやりをもつとはどういうことか、理想的な生徒はどのような生徒か、あるいは理想的な先生とはどのような先生かといったことを考えさせ、それらを形にした校則を学年ごとに生徒たちの意思で制定させる方法をとっています。学校から押し付けられた規則ではなく、自分たちでコミットした規則だからこそ納得感が生まれます。
生徒たちはみな、良い仕事に就きたいと本気で願っています。就職できるか否か、あるいはどのような仕事に就くか、どの企業に就職するかで大きく人生が左右されることを彼らは知っています。だからこそ、自分たちが成長するために最適な環境を作り出そうと、彼らは自主的に自分たちを律する厳しい規則を作ることができます。
日本の学校で同じことをするのは難しいかもしれませんが、企業では、従業員に働くインセンティブを付与する一つの方法として、こうした取り組みを参考にできるかもしれません。

3.インドネシアの裁判-シンプル・スピーディー・低廉な費用

ジャカルタ中央地方裁判所

法務に関しては、ジャカルタ中央地方裁判所を訪問し、所長以下多数の裁判官との意見交換を行うことができました。
ジャカルタ中央地裁では、一般事件のほか、労働事件、汚職事件、国際仲裁及び商事事件等の特別法廷が設置されており、司法研修所が実施する資格付与研修を受け、試験に合格して資格を受けた裁判官がそれぞれ特別法廷を担当しています。
インドネシアの裁判で特徴的なことは、訴訟が提起された場合、実体的な審理に先立ち、又は並行して調停手続きが必ず行われるという点です。調停を原則として先行させることで、早期の和解による解決が志向されています。

インドネシア裁判の3原則

インドネシアの裁判では、①シンプル、②スピーディー、③低廉な費用の3原則が貫かれているとの説明がなされました。日本との比較で目を見張るものは、特に②スピーディーな裁判です。
提訴から終結までの平均的な審理期間は5か月とのことであり、先に述べた調停前置による和解志向と合わせて早期解決を実現しています。日本でも迅速な裁判は理念としては謳われていますが、実務の現場では遅々として進まない事件も残念ながら多く、それが司法に対する信頼を損なう要因となっているだけに、有言実行を果たしているインドネシアの裁判制度は是非見習いたいものです。
このスピーディーな裁判の実現に一役買っているのが、裁判手続きの電子化です。インドネシアでは、訴状その他の書面の提出を電子的に行うことが可能となっています。事案の進行状況や判決もオンラインで確認することができ、判決宣告のための法廷を開かずにオンライン上で判決がなされることもあるようです。
また、短期間での書面のやり取りや集中開廷等、現場の裁判官や弁護士の負担は相当なものがあるようにも思いますが、日本でも事案によってはそうした手続きを取れるよう、司法制度の更なる充実が望まれます。

裁判官は働き者

一人の裁判官が扱う事件数は膨大に及びますが、それらをスピーディーに処理するためにも必然的に執務時間が長時間となります。法廷自体が深夜まで開廷していることもあるとのことですが、裁判官の方は皆やりがいのある仕事に誇りを持たれているようで、実直な勤勉さは非常に印象的でした。

労働事件は解雇問題が9割

特別法廷となっている労働事件ですが、その内容は実に9割が解雇問題とのことでした。インドネシアでも解雇を巡る事件は尽きないようですが、多くは金銭解決となるようです。
労働事件で特徴的なことは、弁護士に依頼する費用がない労働者のために、労働者側では労働組合に訴訟代理権が認められている点です。労働事件の訴訟手続費用は一定額まで国が負担することとも合わせ、裁判3原則のうち③低廉な費用が実現されています。

終わりに

今回のジャカルタ訪問では、他にMM2100工業団地に入居しているデンソー現地法人の工場を見学させていただいたうえ、2つの法律事務所とJETROジャカルタ事務所、JICAインドネシア事務所を訪問しての意見交換を行いました。
ミャンマーの時もそうでしたが、インドネシアでも新興国特有の熱気とエネルギー、何より生活を向上させようというハングリー精神をビシビシと感じました。日本は多くのODA支援をインドネシアに行っていますが、反面、世界第5位の経済大国を目指すインドネシアからも、我々が学ぶべきことはまた多いように思います。

弁護士 古山雅則

この記事を書いた執筆者:弁護士 古山雅則

岐阜県出身。中央大学法科大学院卒業。経営者側に立った経営労務に特化し、現在扱う業務のほとんどが労働法分野を中心とした企業に対する法律顧問業務で占められている。分野を経営労務と中小企業法務に絞り、業務を集中特化することで培われたノウハウ・経験知に基づく法務の力で多くの企業の皆様の成長・発展に寄与する。

2020.07.06 | コラム

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